電源モジュールを作ってみる(途中経過) --EAGLE CAD実践編---
EAGLE CADの使い方を説明しました。
ここでは実際にモジュールを作ってみて、
その一連の流れを通して説明したいと思います。
作製するモジュールの仕様は以下です。
項目 | 値 |
---|---|
入力電圧 | 3.3V~12V |
出力電圧 | 1.2V~5V(チップ抵抗の値で可変) |
出力電流 | 1.5A以上 |
モジュールサイズ | 1.5cm x 1.5cm |
I/F | DIP |
コスト | 部品費500円未満@100個製造時 |
開発の進め方は、概ね以下の順序で行います。
- ICを選定する
- 各部品の値を設定する
- 回路図を作成
- アートワーク作成
- 見積もり、発注、納品
- 評価、時期開発へ不具合事項をFB
ICを選定する
電源コントローラーICは世の中に星の数ほどではないですが、相当数あります。
まずはその種類ですが、大きく分けてLDO、DCDCがあります。
DCDCには、入力電圧と出力電圧の関係で分類した場合、
降圧、昇圧、反転、昇降圧(SEPIC)、昇降圧かつ反転(Cuke)などの種類があります。
名称 | 入出力電圧の関係 |
---|---|
降圧 | 入力電圧 > 出力電圧 |
昇圧 | 入力電圧 < 出力電圧 |
反転 | 出力電圧が負圧 |
SEPIC | 入力電圧より出力電圧を大きくも小さくもできる |
Cuke | SEPICの出力電圧を負圧にしたもの |
DCDCには、コントローラ部、スイッチ部(FET or ダイオード)、コイルが必要ですが、
コントローラー部のみICに内蔵したものや、
コントローラーとスイッチが内蔵されたもの、
さらにはコイルまで含むものと
種類は様々です。
基本的には、内蔵部品が多いほど、IC単体の価格が高くなりますが、
設計の自由度が低い分、設計は楽になります。
今回作製するモジュールは、コスト制約が少し厳しいこととサイズが2cm□と小さいので、
スイッチ部を内蔵したものから選択することにします。
電源ICはTI、Analog Devices、Maximから探してみます。
*TIの製品は概ね安いです。アナデバの電源ICは性能や機能は面白いですが、価格は高めです。
探し方は各メーカーサイトから条件検索できるようになっています。
仕様を条件として入力し、仕様に適したICを探しましょう。
メーカーを問わない場合は、ECサイトのDigikeyやMouserでも条件検索できるので、
そちらを利用しても良いです。
コイルは個人的にはVishayのIHLPシリーズがお薦めです。
コスト計算で細かい部品まで正確に把握するのは手間なので、
チップ抵抗は1部品1円、セラミックコンデンサは1部品10円で計算します。
チップ抵抗とセラコンの概ねの必要個数を、データーシートのレファレンス回路から把握し、
コストを計算してみましょう。
*一部のコンデンサは高価なものもあります。その場合は別途コストに計上してください。
今回はTIのTPS62147という製品を使用することにします。
TPS62147の仕様は以下の通りです。
項目 | 値 |
---|---|
入力電圧 | 3V-17V |
出力電圧 | 0.8V-12V |
電流 | 2.0A |
価格 | 300円@1個購入時 |
価格は少し高めですが、100個購入時に約200円なので許容範囲です。 使用するコイルの選定は、回路設計でパラメーターを算出して決めます。
回路設計
主要部品を選定したら、次は回路設計です。
回路設計といっても、基本はデータシートのレファレンス回路を模倣することになります。
以下はTPS62147のレファレンス回路を抜粋したものです。
各パラメーターはデータシートをじっくり眺めて、各計算式から算出しましょう。
特に重要なのはコイルの許容電流値です。
今回のように使用環境(入出力電圧の設定)が複数想定される場合は、
最悪値を基準として部品を選定します。
コイルはIHLP2020CZの1uH品を選定しました。
価格は280円@1個購入時です。100個購入で180円です。
電源ICと合計で380円@100個購入時となります。
シンボル作成して、部品配置じて、配線つなげて、回路図完了です。
アートワーク設計
回路設計が完了すれば、次はアートワーク設計です。
DCDC電源の場合、アートワークで性能が多少変わってきます。
データシートにレイアウト例が記載されているので、参考にしましょう。
基板サイズを1.5cmx1.5cmにします。
とりあえず部品を配置してみました。
・・・かなり狭いですね。ちょっと仕様が厳しすぎたか。
今回の例に限らず、実際の開発現場においても
回路設計・アートワーク設計を進める中で困難に出くわすことは多々あります。
その場合は"無理"を通す必要が出てきます。
ここでいう"無理"とは、QCD(Quality、Cost、Delivery)のいずれか又は複数を犠牲にすることを言います。
種類 | 対策例 |
---|---|
Q: 品質 | 仕様を変更して電流を1Aに制限する |
C: コスト | コイル内蔵の小型で高価な部品を選定する |
D: 納期 | 部品の再選定、回路図の再設計など後戻りで解決する。部品選定後に再度後戻りする可能性もある。 |
通常はQCDどれも犠牲にすべきでないと考えられていますが、
営業やマーケティング部門と協議し、仕様に過剰なものがないかを確認することはとても重要です。
そこでの議論が営業とマーケティングの成長につながり、
その後の会社組織の改善につながるからです。
一方で仕様変更を安易に行ことは、エンジニアの成長を阻害することにもなります。
この辺はバランスが重要です。
今回は、品質面で少し無理をしてみます。DIPを片側一方に取り付けます。
また電源ICのPG(Power Good)ピンは使用しない方針にします。
* 要求仕様に記載がないので、"無理"には含まれないかもしれませんが。
モジュールの固定に少し難ありですが、基板サイズが小いのでDIPコネクタを固定すれば特に問題ないでしょう。
部品配置を変更したものが以下です。
こう見るともう少し攻めれそうですが、現時点で十分小さいので
無理はやめておきましょう。
あと配線を引き回し、シルクの位置を調節して
これでアートワークが完成しました。
部品面はこちら
半田面はこちら
見積もり、発注、納品
基板製造の見積もりと発注を行います。
今回はElecrowに基板製造を依頼します。
基板が納品されるまでに、実装部品も購入しておきましょう。
今後の想定
基板が届いたので部品を実装します。
部品点数が少ないので手半田で実装します。
コントローラーICの1ピンを間違えないように注意しましょう。
完成しました。
評価
評価は、開発で最も重要な項目です。
なぜ評価が重要かというと、(自分含めて)ユーザーが必要としているのは、
基板(モノ)ではなく機能・性能(コト)だからです。
*ここでは、ユーザーが必要としているのは
"1.5cm□のモノ"ではなく、"省スペースで電圧変換を容易にできるコト"です。
設計段階では言及しませんでしたが、通常の開発では評価項目をあらかじめ決めたうえで
回路設計すべきです。
評価に必要な機能を基板に盛り込めば、評価が格段に楽になることに加えて、
不具合発生時に容易に対策がとれるようになります。
また、評価内容が明確なら、基板の納品を待つ間に評価に必要な部品や冶具を購入できます。
*今回は簡単な回路なので評価内容も少なく、評価用の機能は含んでいません。