アナログ回路の個別設計--基本事項--
Makersの課題
PCが安くなり、ソフトのツールがほぼ無料になった結果、
プログラミングの個人開発が容易になった。
加えてArduinoやラズパイ、それらに接続できる各種モジュールも安価で販売されるようになり、
個人でハードウェアの利用が可能となった。
さらには、個人で基板開発を行う上で障壁となっていた回路・基板CADも無料・安価に利用できるようになり、
製造も中国ベンダーによる低価格化が進んだ結果、
個人でハードウェアを設計・開発できるまでになった。
現時点で、個人がモノづくりを行うに必要な土壌はすべて整っており、
個人の技術力だけ唯一の障壁となっている。
ソフトウェアはトライアンドエラーを無料で行える一方で、ハードウェアは、安価になったとはいえ、一度のトライにお金がかかる。
ここでは、ハードウェア開発を行うにあたって、ミスを最小化できるよう、基本事項をまとめておく。
前提
ICの周辺回路設計の基本は、
ICのデータシートを読みこみ、レファレンス回路を流用・微調整すること。
危ない橋は渡らず、極力レファレンス回路を真似するのが、動作する基板を開発するための近道。
電源
電源は大きく分けてLDOとDCDC電源がある。
LDOの呼称はLow Drop Outの頭文字による。
"Low Drop Out"とは入力電圧と出力電圧の差が小さいことを意味している。
"DCDC"は、DC電源から(電圧の異なる)DC電源を生成することを意味している。
それぞれの特徴は大雑把に書くと以下の通り。
項目 | LDO | DCDC |
---|---|---|
構成 | シンプル | 複雑 |
ノイズ | 小さい | 大きい |
効率 | 悪い | 良い |
LDO(Low Drop Out)
LDOの使い方
LDOの使い方は極めて簡単。やることと言ったら出力電圧の設定のために、FB抵抗の値を決めるくらい。
電源オフ時に注意が必要な時代もあった
入力電源供給を遮断した場合に、出力電圧>入力電圧となり、入力側の機器を壊す恐れがある。
最近のLDOダイオード内蔵が多いが、データシートを確認して、
ダイオードがなければダイオードを実装するのが良い。
LDOは効率が悪い
LDOは入力と出力の電圧は異なるが電流は等しい。
入力の電力 Pin = Vin x Iin 出力の電力 Pout = Vout x Iout
とした場合、IinとIoutが等しいので、消費電力は
Pross = Pin - Pout = (Vin - Vout) x Iin
となる。例えば入力電圧5V、出力電圧3.3V、電流1Aとした場合
Pin = 5 x 1 = 5W Pout = 3.3 x 1 = 3.3W Pross = 1.7W 効率 η = 3.3/5 = 66%
となる。
Prossの1.7WはすべてIC内部で熱になる。基板を使って放熱する必要がある。
ちょっとレベルアップ
ノイズレベルの確認。
LDOのデータシートにこんなグラフがある。
これは電源電圧変動除去比といって、
入力電圧のAC成分をLDOを通すことでどの程度除去できるかを示したもの。
例えば、横軸1kHzにおいて縦軸が60dBだった場合、
入力電圧に含まれる周波数1kHzのAC成分は、このLDOを通すことで
60dB(=1000分の1)抑制されることを意味している。
DCDC電源
DCDC電源には入力電圧と出力電圧の関係で、大きく分けて4種類ある。
基本的な構成は、コントローラICとFET or ダイオードで構成される。
FETのほうが効率は良いが、価格・サイズがアップする傾向にある。
降圧コンバータ
出力電圧<入力電圧となるもの
以下のような回路で構成される。
出力段にコイルとコンデンサによるフィルタが構成されるので、
出力電源のノイズはそこそこ抑えられる。
昇圧コンバータ
出力電圧>入力電圧となるもの
以下のような回路で構成される。
昇圧コンバータで注意が必要なのは、
電源ICが使用されない状態(Swをオフ)にしても
出力側に電源が供給され続ける点である。
SEPICコンバータ
出力電圧が正圧で、入力電圧と出力電圧の大小関係はなし。
回路構成はかなり複雑だが、専用ICとそのデータシートがあれば誰でも簡単に実装が可能。
Cukeコンバータ
出力電圧が負圧で、入力電圧と出力電圧の大小関係はなし。
チャージポンプ
昇圧/SEPIC/Cukeコンバータにはチャージポンプ回路を接続することで、
出力電圧を容易に2倍、3倍・・・と増幅できる。
FETの選び方
FETにはPMOSとNMOSがある。
FETの説明を見ると、小難しいグラフが記載されているが
個人開発での部品選定においては、ほぼ無視してOK。
とりあえず重要なのは、以下の4点。
印加電圧・電流がデータシートに記載されている定格値を超えるとFETは破損するので注意。
VGS(ゲートソース間電圧)
ゲートとソース間の電圧。ゲート側が+。
VDS(ドレインソース間電圧)
ゲートとソース間の電圧。ゲート側が+。
Idrain(ドレイン電流)
FETオン時に流れる電流値。
Ron(オン抵抗)
FETオン時のドレインソース間の抵抗。
大電流を流す場合、オン抵抗が大きいと発熱が大きくなり最悪燃えるので注意。
FET内部の消費電力の計算は以下で求められる。
消費電力 Pross = Idrain x Idrain x Ron
ロードスイッチ
一つの電源ラインから複数の機器に電源供給する場合に、
各機器の電源入力のOn/Offを切り替えたい事がある。
その場合、ロードスイッチを使用する。
小型のロードスイッチICも多数存在するが、
大電流用途ではNMOSとPMOSで構成するのが一般的。
電圧と電流によってFETを選択する。
1A程度であれば小型のICが売られている。
オペアンプ
センサのアナログ信号をデジタル化する際にADコンバータでAD変換する。
AD変換する前に信号レベルをADコンバーターのフルスケールに合わせるため、
オペアンプで信号を増幅する。
反転増幅回路
一般的な構成。出力が±反転される。
*+と-を間違えないように注意。
入力電圧と出力電圧の関係は以下となる。
Vout = -(R2/R1) x Vin
非反転増幅回路
出力を反転させないで増幅する場合はこの回路構成をで行う。
*+と-を間違えないように注意。
入力電圧と出力電圧の関係は以下となる。
Vout = (1+ R2/R1) x Vin
バッファアンプ(ボルテージフォロワ)
信号を増幅させない場合の回路構成。
電流が必要な場合や、フィルタを多段にする場合に使う。
*非反転増幅でR1 = R2 = 0の場合と等価
プルアップ/プルダウン
信号がデジタル値の場合、信号レベルのデフォルト状態をHかLに固定しておきたいことがある。
その場合に、信号-電源間または信号-GND間に抵抗を接続する。
インターフェース
IC間で信号をやり取りする場合、双方のインターフェースをあらかじめ統一しておく必要がある。
代表的なものは以下。
I2C
データ線とクロック線の2本で通信を行う。2本ともプルアップ抵抗を接続するのが一般的。
SPI
送信用のデータ線(MOSI)と受信用のデータ線(MISO)とクロック線(CLK)とチップセレクト信号(CS)の4線式。
MasterとSlaveを予め決めておく必要がある。
*MOSIはMaster Out Slave In、MISOはMaster In Slave Outを意味。
クロックに対するデータの読み出しタイミングで4通りのモードがある。
UART
送信用のデータ線と受信用のデータ線の2線式。
予めデータの周波数(ボーレート)を決めておく必要がある。
オープンコレクタ(オープンドレイン)
信号線をプルアップし、スレーブ側のICが信号レベルをGNDに落とすことで通信する。
信号の電圧レベルをマスター側が自由に設定できるメリットがある。